奈良地方裁判所 平成2年(行ウ)7号 判決
原告
村上洋子
(ほか一二名)
右原告ら訴訟代理人弁護士
荻原研二
同
内橋裕和
同
藤井茂久
被告
(高取町長) 米田和彦
同
(高取町助役) 上田修三
右被告ら訴訟代理人弁護士
田中義雄
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
1 高取町丹生谷簡易水道組合の特別委員会が山添村の万寿ゴルフ場を視察した際の排水の汚染の程度に関する評価と同地区の住民の一部が結成した「高取町ゴルフ場建設計画に反対する母の会」が同ゴルフ場を視察した際のそれとが著しく異なるため、審議会においては、ゴルフ場誘致についての意見の取りまとめができない状態となっていた。そこで、平成二年六月一六日ころ、丹生谷区の区長である栗本一郎、事務連絡員の川本春敏、審議会委員長の中川貞勝が相談の上、右栗本、川本両名が、被告上田に対して、町として審議会の委員を万寿ゴルフ場の視察に連れていってもらいたい旨の申出をした。
2 そこで、町長の被告米田は、右の申出を受けて審議会委員のゴルフ場視察を決定し、山添村々長に対して万寿ゴルフ場の案内を依頼し、また、グリンピアの親会社であるトーアの経営するバードヒルズを視察先に含めることとした。
3 平成二年六月二六日、町は、審議会委員一七名を職員の運転するマイクロバスで万寿ゴルフ場とバードヒルズに案内した。外に町の職員三名が随行した。一行は、万寿ゴルフ場で排水施設及び簡易水道の水源の見学をし、山添村の久保村長からゴルフ場を誘致した場合の税収、雇用、農薬汚染等に関する説明を受け、バードヒルズで調整池、排水口等の見学をし、同ゴルフ場の関係者から図面で同ゴルフ場の施設等の説明を受けた。なお、バードヒルズでは、グリンピアの社長である相澤良信が一行を待ち受けており、審議会委員らに挨拶をしている。
4 そして、前記のとおり、町は右視察に際してマイクロバスをレンタルし、審議会委員に、朝食にパン等、昼食にドライブインで幕の内弁当とビール等を提供している。
二 以上の事実に基づいて判断する。
1 丹生谷区の住民の意見を反映する場として、町が誘致を決定した本件ゴルフ場について審議する審議会において、山添村の万寿ゴルフ場の排水の汚染の程度に関する評価を巡って委員の意見が対立したため、本件ゴルフ場誘致について意見の取りまとめができない状態となっていたことが認められるので、審議会の委員が万寿ゴルフ場を視察する必要があったということができる。そして、このような場合に、町として、審議会委員に右ゴルフ場の視察をさせることは、町が誘致を決定したゴルフ場について審議する上で必要な情報を地元住民に提供するものであるから、客観的に見て、町民の福祉を保持する町の「公共事務」に該当するものというべきである。なお、右ゴルフ場を経営するグリンピアと同系列のトーアが経営するバードヒルズを視察の対象とすることは、誘致されるゴルフ場がどのように経営されているかを判断するのに必要な情報を住民に提供するものであるから、不当とはいえない。
2 もっとも、審議会委員らは、視察の際に簡易水道の水源や排水での水質調査等をせず、視察結果の報告書も作成された形跡はないこと等右視察の内容は十分なものとはいえない。しかし、そうであるからといって、本件視察が町の公共事務でないものとすることはできない。さらに、昼食にアルコールが提供されたこと等支出の項目のなかには必ずしも妥当とはいえないものがある。しかし、町が企画した視察に参加した住民に対し食事等を支給することは社会通念上相当な行為であり、その額も一人当たり二五〇〇円にも満たないものであるから、金額の点でその支出が社会通念の範囲を超えるとすることもできない。
3 原告らは、本件視察が反対派住民を接待する意図のもとに行われたものであるから違法であると主張する。しかし、前記のとおり本件視察は審議会委員長の意を受けた区長らの要請により行われたものであり、視察の際に出された昼食等も二五〇〇円にも満たないものであって、本件において右の意図を認めるに足りる証拠はない。また、原告らは、丹生谷区においてはゴルフ場誘致につき有権者の過半数を超える者が反対の署名をしているから、もはやゴルフ場誘致に関して町が地区住民のために支出する必要性はないとも主張する。しかし、有権者の過半数の者がゴルフ場誘致に対して反対であるとの証拠はなく、そもそも、町として誘致を決定したゴルフ場について住民の中にその誘致についてかなりの反対意見があった場合、町としてゴルフ場を誘致した場合いかなる状況となるかを理解してもらうために住民をゴルフ場に視察させることは相当かつ必要な行為であり、何ら違法とすることはできない。
第四 結論
以上のとおり、本件視察は町の公共事務であって、その際の支出は社会通念上相当の範囲内のものと認められるから、本件支出は適法というべきであり、原告らの請求はいずれも棄却すべきこととなる。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 近田正晴)